Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
見落としがちな「ループ」の力
最近、エグゼクティブ・コーチングをしていて感じるのは、リーダー自身や組織文化について定期的にフィードバックを得ることが当たり前になりつつあるということです。
実際、多くの企業で、従業員満足度調査や組織風土診断、リーダーシップ360度アセスメントなどが行われ、
・アンケートを実施する
・結果を分析する
・改善策を考える
・それを実行する
・再度アンケートを実施する
という改善活動が習慣化されています。
いわゆる「フィードバックサイクル」をしっかり回している状態です。
もちろん、フィードバックを受け取ることは容易ではなく、自分自身や組織の課題を指摘されることに抵抗を感じる人も少なくありません。それでも、多くのエグゼクティブは勇気を持ってフィードバックを受け止め、改善に取り組んでいます。
ところが、ここで興味深い現象が起こります。
フィードバックを真摯に受け止め、改善策も実行している。
フィードバックサイクルもきちんと回っている。
それにもかかわらず、
エンゲージメントが上がらない
組織風土が変わらない
主体性が高まらない
と、期待したほど変化が起きないのです。
そこでさらに情報を得ようとアンケート項目を増やし、分析を精緻化する。しかし、それでも状況が大きく変わらない。
なぜでしょうか。
インタビューから見えてきたこと
クライアントのAさんもそんな現象の中で苛立ちを感じ始めていました。これまで、組織変革に向けて多くの取り組みを行い、フィードバックサイクルも積極的に回し、改善に向けた努力も続けている。それなのに思うような変化が起こらない…。
そんな折、エグゼクティブ・コーチングの一環として、組織変革を共に進めるキーパーソンたちへのインタビューを実施しました。
印象的だったのは、「対象者は、私にフィードバックを求めてくる」という設問の結果です。
10点満点中、平均は3点台。
Aさんは大きな衝撃を受けました。自分はフィードバックを重視していると思っていたのに、周囲はそう認識していなかったからです。
「この結果は何を意味しているか」
「いつ頃からこの状態が続いていたのか」
「周囲の人たちは何を感じていたのか」
セッションで対話を重ね、共に考えていきました。
Aさんはフィードバックを受け止め、それを反映した改善や行動を示していました。 フィードバックが歓迎であることも表明し、アンケートなど定期的に機会も設けていました。
ただ、日頃からフィードバックを自ら求めに行ってはいませんでした。
興味深かったのは、複数のキーパーソンもインタビューの中で次のように語ってたことでした。
「自分も、Aさんにフィードバックを求めていませんでした」
「自分自身もこれからは部下にフィードバックを求めてみたいと思います」
課題は、Aさんひとりにあったわけではありません。どうやら関わる人たち全員が、影響し合っていることがわかってきたのです。
見落とされていた「ループ」
私たちが実践するシステミック・コーチングでは、問題を個人の中だけに見ません。人は常に周囲との関係性の中で行動し、その影響を受けながら生きています。
Aさんは確かにアンケートなどを通して、制度や仕組みとしてフィードバックサイクルを回してはいました。一方で、キーパーソンたちとのコミュニケーションの中で直接フィードバックを求めることはあまりありませんでした。
その結果、対話の中で互いに率直な意見を伝える機会が減ります。トップの姿勢は伝播しますから、周囲もAさんにフィードバックを求めません。どんどんフィードバックに関する対話が減っていき、そうするとさらにフィードバックを求めづらくなります。
つまり、「フィードバックが行われづらい状態を維持するループ」が存在していたのです。
必要なのは、新しいアンケート項目でも、新たなフィードバックサイクルを回すことでもなく、今とは逆の「ループ」をつくり出すことだったのです。
このことに気づいたとき、改善の方向が変わりました。Aさんは、「どうフィードバックを集めるか」から「どうフィードバックが循環する関係性そのものをつくるか」へと関心を移していきました。
具体的には、
直接、自分から周囲にフィードバックを求めること。
自分からも周囲へフィードバックを返すこと。
問いかけを増やすこと。
フィードバックを結果や評価としてではなく、対話として扱うこと。
そうした日常の関わり方を変え始めたのです。
組織に今どんなループが働いているか
『3分間コーチ 対話がひらく人と組織の未来』には、「フィードバックは今ここでの体験であり、評価でもなければ固定されたものでもない」とあります。
今日はそう思う。明日は違うかもしれない。だからこそ日々フィードバックを交わし合うことに価値があります。
重要なのは、フィードバックを集めることではありません。フィードバックを止まることなく循環させることです。
私は、組織を変えるのは、フィードバックそのものではなく、フィードバックが自然に行き交い続ける関係性であると考えています。
普段から互いにフィードバックを求め、フィードバックし合う。その循環が組織の至るところで起きていけば、自然と組織も変化し続けていくはずです。
フィードバックサイクルを回しているのに成果が出ないと感じたとき、新たなサイクルを回そうとする代わりに、ぜひこう問い直してみてほしいのです。
「私たちの間には、今、どんなループが働いているのだろうか」
その問いの先にこそ、組織変革の本質的なヒントがあるはずです。
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《参考資料》
伊藤守(著)、『3分間コーチ 対話がひらく人と組織の未来』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2025年
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