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「面白い」から「楽しい」への橋渡し

先日、人生で2度目のフルマラソンに挑戦しました。そのことを話すと、周囲からは「よくそんなしんどいことやるね」「走るのってつらいじゃん」と言われます。

しかし、自分が走っていたときの感覚を振り返ると、苦しさより圧倒的に“楽しい”が勝っていました。35kmを過ぎたあたりからはもう足も痛くて、しんどいなと感じることもありましたが、42.195km走る中で、ほとんどの時間は純粋に楽しかったのです。

ゴール(完走)を達成するための努力、自分との闘いというよりは、むしろこの時間がもっと続くといいなと思っていました。「楽しい」と感じることで、その時間そのものを大切にできていた感覚もあります。

この「楽しい」という感情は、非常にパワフルだと感じました。

孔子の言葉に、こんな言葉があります。
「知之者不如好之者、好之者不如樂之者」
(これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず)
多少意訳するなら、「努力する者は楽しむ者には勝てない」と解釈できます。

このことは仕事にも当てはまるように思います。義務感や責任感よりも、楽しさで働く方がパフォーマンスも上がるという体験がみなさんにもあるのではないでしょうか?

とはいえ、私たちはつい仕事を「つらいもの」「頑張るもの」「我慢するもの」と考えがちです。

では、仕事を“楽しい”と感じるためには何が必要なのでしょうか。

「面白い」と「楽しい」の違い

このテーマについて考えていたとき、ふとひとつの問いが浮かびました。

「面白い」と「楽しい」の違いってなんだろう?

何かに取り組んでいるとき、私たちは「面白い」と感じることもあります。「楽しい」と似ている気もしますが、ちょっと違うものも感じます。
そこで、ChatGPTに「面白い」と「楽しい」の違いを聞いてみました。

心理学・認知科学では、「面白い(interesting / amusing)」と「楽しい(fun / joy)」は別物として扱われ、次のような特徴があるようです。

■「面白い」──情報ギャップと好奇心

「面白い」という感情には、好奇心という心理的メカニズムが深く関係しています。心理学の世界では、好奇心は「既知と未知のギャップが生じたとき」に立ち上がると知られているようです。

つまり、知らないことがあるとき、人は自然と“知りたい”という感情になる。それが「面白い」という感覚の源泉です。
このとき脳ではドーパミンが分泌され、探索行動(exploration)を促します。好奇心が湧くと、人は自発的に調べ、試し、行動しはじめます。

しかし、この段階ではまだ、それが「楽しい」とは限りません。

■「楽しい」──意味、価値、達成感

一方「楽しい」は、好奇心に加えて、自分の価感観や意味づけと結びついた状態です。ポジティブ心理学の研究では、楽しさは一種の「eudaimonic well-being(自己実現的幸福)」を含むと考えられているようです。

つまり、楽しさとは単なる快楽ではなく、「自分が望む方向に進んでいる実感」や「成長している実感」が重要になるのです。

「面白い」が外からの刺激で生まれる感情であるのに対し、「楽しい」は内側の価値や意味とつながり生まれる感情と言えます。

ここで、はたと思い当たりました。

「面白い」と「楽しい」は、次のようなプロセスとしてとらえることはできないでしょうか。

1. 面白い
2. 行動が生まれる
3. 成果が出る、意味づけがされる
4. 楽しい

なんだか「面白く」なってきました(笑)

私たちはどうしたら楽しくなるのかとつい最初から楽しいことを求めてしまいますが、もしかしたら楽しさは結果であって、出発点ではないのかもしれません。「面白い」をいかに「楽しい」に昇華させるか、ここに鍵がありそうです。

そこで思い出したのが、クライアントAさんとのコーチングです。

コーチングは「面白い」から「楽しい」への橋渡し

Aさんとのコーチングテーマは、「違いを活かす」でした。

Aさんは、「違い」を面倒くさいものと捉えており、違う考えをしている人には深入りしないようにしていました。自分と異なる意見を言われたときには、どうやって相手を説得するかばかりを考えていました。

ですが、コーチングセッションを通して、「そもそも違いとは何か」を対話していくうちに、「なぜ相手が自分と違う考えを持っているのか」に興味を持つようになりました。「違い」を「面白い」と感じるようになったAさんは、職場の人との「違い」について観察するようになりました。

しかし、この段階ではまだ本質的な行動変容には至りませんでした。なぜなら、「面白い」とは感じていても、限りある時間の中で成果を出さなければならないというプレッシャーや責任感、忙しさがその好奇心を摘んでしまっていたのです。

そこで、セッションで次のようなことをAさんと共に探索しました。

  • なぜ違いを「面白い」と感じたのか? その背景にはAさんのどんな価値があるのか?
  • 「違い」は、Aさんのリーダーシップにどんな可能性をもたらすのか?
  • それは、相手や組織にとってはどんな意味があるのか?

こうした言語化をする中で、Aさんの中で「違い」を活かすことの意味づけがされ、違う考え方をする相手とも一歩踏み込んだ対話をし始めました。その中でAさんは次のような体験をしました。

  • 当初自分では考えていなかった新しいアイディアが生まれた
  • 関わらないようにしていた人とも関係性が築けた
  • 違う考えの人とも敵対しなくなった
  • 相手の考えを受け入れることで、部下が自発的に動くようになった

「違い」を活かすことに取り組み続けたAさんは、最終セッションで嬉しそうにこう言いました。

「いつの間にか、意見の違いがでてくるのが『楽しい』と思うようになった。これは自分にとって大きな変化だ」

コーチングでは、何を価値とし、何を望み、どう感じているのかというその人の主観に丁寧にアクセスします。このプロセスは、「面白い」を単なる刺激で終わらせず、「楽しい」へとつなげる可能性を秘めています。

その意味で、コーチングは「面白い」を「楽しい」に変換する、橋渡しになりうると私は思います。

仕事を楽しいと感じるために、日本を元気にするためにも、「仕事が楽しい」と感じる人がひとりでも増えてほしいと私は願っています。

一方で、「自分は楽しめているのか」「どうしたら楽しめるか」という問いは、つきつけられると、時に苦しい問いでもあるように感じています。

「そりゃ楽しめたらいいけど、仕事とは本来厳しいもの、生活のためには必要なこと、そんなに世の中甘くはない」と言いたくもなるのではないでしょうか。
「楽しむことができない自分はなんてダメなんだ」と自分を責めてしまうことにもなりかねません。

そこに対して、「面白い」がひとつの突破口になるのではないか。今回のコラムを書きながらそう強く思いました。

仕事を楽しむために、みなさんもまずは「面白い」を見つけてみませんか?

 

《関連資料》

【対談レポート】楽しいと思える職場作りを目指して ~システミック・コーチング™による人材確保~

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