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「違い」の扱い方が、リーダーシップの質を決める

議論が噛み合わない。多様な意見は出るものの話が前に進まない。部門間や立場の違いが、いつの間にか対立に変わっている…。私たちは日々、そうした様々な「違い」の中で仕事をしています。さらにはグローバル化が進み、日本にいながら多国籍なメンバーと協働することも珍しくなくなった今、私たちが直面する「違い」は、ますます複雑になっているように感じられます。

多様性を重んじ、DEI(Diversity, Equity, and Inclusion)を掲げる企業が増える中、「違い」をどう扱えばよいのかに悩むリーダーは少なくありません。しかし同じ環境にありながら、違いを「問題」とするのではなく、「組織の強さ」へと変えるリーダーがいるのも事実です。その差を分けているのは、一体、何なのでしょうか。

本稿では、ビジネスリーダーが日々直面する「違い」に改めて光を当てながら、違いをどのようにとらえ、扱うことができるのか、そしてそれがリーダーシップの質をいかに決定づけるのかを考察していきます。

そもそも「違い」とは:「見える」違いと「見えない」違い

「違い」と聞いて、あなたはどんなものを思い浮かべるだろうか。職場を見渡せば、年齢や性別、世代や役職等、数多くの違いが存在する。グローバル化が進む昨今、国の文化や言語の違いを思い浮かべる人も多いだろう。

そうした表層している「見える」違いに加え、「見えない」違いがあることにまず注目したい。ここでいう「見えない」違いとは、たとえば、価値観の違いや、当たり前とされている前提の違い等を指す。こうした違いは、ときに認識されづらいことに留意が必要である。ここでは、そうした「見えない」違いも含めた「違い」の扱いを検討していく。

「違い」に、どう向き合うのか?

さて、そうした「違い」に直面するとき、私たちは無意識のうちにその違いを「縮めよう」あるいは「消そう」としがちだ。これは人間という生物がもともと備えている、きわめて自然な反応である。

社会心理学では、人は他者を理解する際、まず「同じか、違うか」でカテゴリ分けする傾向があるとされている。また、社会学者のTajfelらが提唱した「社会的アイデンティティ理論(Social Identity Theory)」によれば、人は自分が属する集団(内集団)と、そうでない集団(外集団)を無意識に区別し、内集団をより好意的に評価しやすいとされている(※1)。

つまり、私たちは「違い」に敏感であり、「同じ」ことを好む。これは、集団の中で生き延びてきた人類にとって、適応的な仕組みであり、今も私たちの中で続いている。この仕組みゆえに、国籍や性別、部門、職種、本社と現場、ベテランと若手といった分かりやすい属性はもちろんのこと、考え方や価値観といった認識しづらいものも含む「違い」を、私たちは「自分を脅かすもの」と感じる。すると、自分の正しさを守ることに意識が向かう。そうした状態では、違いは「扱うべき素材」ではなく、「排除・同化すべき問題」として立ち現れる。

マネジメントと心理学を研究してきたDavid A. Harrison氏も、職場における本質的な「違い」は、時間とともに浮かび上がり、リーダーが意図的に扱わなければ、チームの結束や成果に決定的な影響を与えうる、という点を示唆している(※2)。

重要なのは、私たちの「違い」に対する反応そのものをなくそうとすることではない。違いに直面したときに、防衛的になったり、相手を説得・論破しようとする衝動が生まれるのは、ある意味で自然なことだからだ。むしろ、そうした反応が立ち現れたときこそ、そこに「違い」があることに気づき、その違いが何なのかをはっきりと認識するチャンスでもある。

ここでリーダーの質を分けるのは、そうした反応が起きていることにまず意識的であるかどうか、そして、その反応にそのまま従うかどうかの選択である。違いを消そうとする衝動に気づいて一度立ち止まり、「そこにどんな違いがあるのか」「今、自分は何を守ろうとしているのか」「この違いは、何を示しているのか」と問い直すことができたとき、初めて違いは「問題」ではなく、「資源」として扱われ始めるのだ。

「違い」という資源を「成果」に結びつけるには

ここまで見てきたように、私たちは「違い」に直面すると、それを「問題」と認識して、無意識に「消すべきもの」として扱いがちである。しかし、職場で起きている停滞や対立の原因は、違いそのものにあるわけではない。多くの場合、問題なのは、意見や価値観が「違う」ことではなく、そもそも目指す方向が共有されておらず、せっかくの「違い」を活かせない状態に無意識のうちに陥っていることなのではないだろうか。

たとえば、部門間でKPIが異なるのは当然で、立場が違えば重視する観点が異なるのも自然だろう。それは、立場や観点の違いにすぎない。にも関わらず、しばしば部門間の非生産的な対立につながるのは、「どちらが正しいか」という議論に終始し、「この違いを前提に、私たちはどんな未来をつくりたいのか」という問いが置き去りにされているからだ。

これは、組織内の対立研究とも重なる。職場の葛藤は、「課題に関する違い(task conflict)」と「関係性に関する対立(relationship conflict)」に分けて考えられるが、共通の目的が明確でない状況では、前者が後者へと転化しやすいことが知られている(※3)。違いは、未来が共有されていないときに「分断」になる。一方で、未来が共有されているとき、違いは「材料」となる。

「違い」を扱うリーダーの役割とは

職場における多様性と成果の関係を整理した研究では、多様性そのものが自動的にパフォーマンスを高めるわけではないことが指摘されている。多様な視点や知識が存在していても、それらが共通の目的や問いのもとで統合されなければ、むしろ分断や摩擦が強まることがあるのだ(※4)。

多様性を活かす、言い換えるなら「違い」を活かすためにリーダーが担うべきは、未来に向けた「問い」を場に置くことである。

「私たちは、何を実現したいのか」
「その目的に照らすと、この違いは、どんな意味を持ちうるのか」
「違いを活かして、我々はどのような未来を実現できるだろうか」

こうした問いが間に置かれた瞬間、対話の質は変わり始める。人々の関心が、「自分の正しさを守ること」から、未来に向けて「共に考えること」へと少しずつ移っていくのだ。この意味において、リーダーに求められるのは、違いに直面したときに起こる自分自身の反応に気づき、その違いをどの方向に向けるのかを選び続けることと言えるだろう。

違いそのものをなくすことはできない。しかし、違いに対して本能的な反応のまま振る舞うのか、それとも立ち止まり、問いを置き、未来に向けて扱い直すのか。その選択の積み重ねこそが、リーダーシップの質を形づくっていくのではないだろうか。

  • あなたの身の周りにある「違い」とは?
  • 普段「違い」に向き合う時、あなたはどんな思考をし、どんな行動をとっているだろうか?
  • 違いから付加価値を生むために、今からできることは何だろう?

 

(記事執筆:コーチ・エィ マネージャー 柴田仁臣)

 

《関連資料》

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【参考文献】
※1 Tajfel, H. & Turner, J. C. (1979). An integrative theory of intergroup conflict.

※2 Harrison, D. A., Price, K. H., & Bell, M. P. (1998). Beyond relational demography: Time and the effects of surface- and deep-level diversity on work group cohesion. Academy of Management Journal, 41(1), 96–107.

※3 De Dreu, C. K. W., & Weingart, L. R. (2003).Task versus relationship conflict, team performance, and team member satisfaction.

※4 Van Knippenberg, D., De Dreu, C. K. W., & Homan, A. C. (2004). Work group diversity and group performance: An integrative model.

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