Easterlies


不確実性の中で起きる「内的葛藤」と、いかにして向き合うことができるか?

AIの急速な進化、地政学的な不安定さ、経済の混乱といった課題が複雑に絡み合う中で、世界はますます不確実性に満ちています。
そのような中、組織を率いるリーダーがまず意識を向けるべきこととは何でしょうか。

マッキンゼーは、不確実性の時代において、「先行きが不明確なときにも内面的な安定を保ち、周囲と共に意味づけを行うリーダーシップが求められている」と指摘しています(※1)一方で、2025年に発表された研究によると、不確実性の中で、人々はより不安定になり、自分が何を感じているのかを正確に見極める力が落ちていることが示されており(※2)、そのようなリーダーシップを発揮することの難しさがうかがえます。そもそも変革の最前線で日々忙しく過ごすリーダーは、内面の安定どころか、自分の内面や感情に意識を払う余裕さえないことも多いのではないでしょうか。

そこで今回は、変革を率いるリーダーが自らの「内面」に意識を向けながら、不確実性の高い時代に求められるリーダーシップをいかに発揮していくかについて考察します。

変革を率いるリーダーが抱える5つの葛藤

さて、外部環境の変化にさらされるとき、リーダーの内側では何が起きているのだろうか。

何百人もの変革リーダーに伴走してきたRon Carucci氏は、変革を率いるリーダーは、行動を生み出す「主体性(agency)」と、立ち止まって考えることを促す「両価性(ambivalence)」との間で揺れ動くと指摘している(※3)。

これらは一見矛盾しているようにも見えるが、どちらも変革を進める上で不可欠な力だ。言い換えるなら、主体性とは変革を「前に進める力」であり、両価性とは変革の中で「立ち止まり、リスクも含め多様な視点から状況を捉える力」である。この2つがバランスよく機能しているとき、変革を力強く推進することができる。

しかし、不確実性が高まるほど、このバランスは崩れやすくなり、リーダーに内的な葛藤をもたらす。そうした葛藤は、リーダーを疲弊させ、ときに孤立を招くこともある。そうした葛藤状態にリーダーが耐えられず、「主体性」「両価性」どちらかへ過度に偏ると、変革を誤った方向へ導いてしまったり、逆に停滞させてしまったりする可能性がある。

「主体性」と「両価性」の健全なバランスとは

研究者によれば、主体性と両価性の葛藤がとくに起きやすい5つの領域があるという(※3)。それぞれの領域において、「主体性」と「両価性」の健全なバランスと、その崩れた状態を示す。

あなた自身は今、それぞれの領域についてどのようなバランスにあるだろうか。

① ビジョンを語る(Voice)

  • 健全なバランス:鮮明なビジョンで人々を鼓舞しつつ(主体性)、他者からの対話や異論も歓迎する(両価性)。
  • 主体性偏重:自分のビジョンに固執し、強硬的で対立的になり、他者を疎外する。
  • 両価性偏重:ビジョンが曖昧になり、発信も減る。

② 変革のアイディアを検討する(Ideas)

  • 健全なバランス:創造的なアイディアを生み出しつつ(主体性)、どれを実行に移すか冷静に見極める(両価性)。
  • 主体性偏重:次々とアイディアを生み出すことで方針変更が頻発し、変革の方向性が揺らぐ。
  • 両価性偏重:リスクや批判を恐れ、有望なアイディアを手放す。

③ 変革の目的や情熱を共有する(Passion)

  • 健全なバランス:「なぜこれをやるのか」という目的を示しつつ(主体性)、他者が自分の動機を語る余地もつくる(両価性)。
  • 主体性偏重:押しつけが強くなる。強制的になる。
  • 両価性偏重:目的が曖昧になり、変革への情熱が薄れる。

④ 現状への「健全な不満」を扱う(Discontent)

  • 健全なバランス:現状への不足や問題に目を向け(両価性)、「改善のための問い」に変える(主体性)。
  • 主体性偏重:改善にばかり目が向き、周囲の不足を批判し軽蔑する。
  • 両価性偏重:不足や問題にとらわれ、変革への意欲が低下し、現状を受容する。

⑤ 変革は可能であり必要だという「信念」を持つ(Conviction)

  • 健全なバランス:明確で高い基準を掲げつつ(主体性)、変革をどう実現するかは他者と柔軟に考え、反対意見も歓迎する(両価性)。
  • 主体性偏重:自分のやり方以外の方法に対して防御的になり、異なる意見を排除する。
  • 両価性偏重:失敗経験や個人的な疑念にとらわれ、変革実現への希望を喪失する。

「主体性」と「両価性」の葛藤は、健全なバランスが保たれている限り、変革を前進させる力になる。
しかし、状況が日々変わる中で、常に良好なバランスを保つのは容易ではない。また、場面によって「主体性」と「両価性」のどちらがより強く求められるかも変わる。

重要なのは、葛藤を完全になくすことではなく、葛藤が起きたとしても場面に応じてうまくバランスをとることだ。そのために、リーダーはまず、自分の内面の状態に気づいている必要がある。

不確実性の時代に重要なリーダーシップの実践:「コンテインメント」

もちろん、変革を率いるリーダーは、自分に意識を向けているだけでは十分ではない。

たとえば、領域⑤において、リーダーが主体性偏重になれば、メンバーは新しいやり方を提案することを恐れるようになるだろう。逆に、リーダーが両価性偏重になればメンバーも同じく変革への希望を失ってしまう可能性が高い。リーダーの内面の状態やそこから表出する言動は、メンバーや組織全体に確実に影響を及ぼすのだ。

つまりリーダーには、自分の内面と周囲の状態の両方に目を向けながら、「主体性」と「両価性」のバランスを調整し続けることが求められる。

その実践において参考となるのが、心理学者ウィルフレッド・ビオンの「コンテインメント(containment)」という考え方である。コンテインメントとは、「扱いきれない感情を言葉にすることを許容し、この状況は何を意味しているのかを共に考える関係的空間(容器)をつくるプロセス」のことである(※2)。もう少し簡単に言えば、「整理しきれていない不安や葛藤を、安心して表現し、共に考えることのできる場をつくること」である。

これは、日々の仕事にも取り入れることができる。たとえば、難しい会議の冒頭で、「計画を詰める前に、10分だけ、それぞれがどう感じているのかを話しませんか?」と呼びかけるとしよう。そこから、「どう進めればいいのか分からない」「わくわくしているが不安もある」といった声が少しずつ共有されることで、その場にいる人々が率直に表現してよいというメッセージが共有される。重要なのは、オープンさを無理に演じることではなく、どのような反応もこの場では受け止められるという安心感をつくることだ。

不確実性が高く、変化も多い時代に必要なのは、リーダーを含む全メンバーが自分の感情の重さを共有できる場をつくり続けることだ。それはリーダーにとって、メンバーの内面、そして自分自身の内面の両方を受容しながら、バランスを調整する機会でもある。

このように組織の中に感情を適切に表現できる場が存在すると、感情を自分の中だけで管理するための無駄な消耗も減る。それにより、開かれた対話が起こるようになり、互いに対する寛容さも生まれ、学習が加速すると考えられている。逆にそのような場が欠けると、語られない感情は歪んだ形で組織に残り、不信や回避を生み、組織やメンバーの「考える力」そして「内面の安定」を低下させてしまう。

変革の時代において、リーダーの役割は変わりつつある。それは、すべてを自分の責任として解決しようとするのではなく、自分自身も含むメンバー全員が難しい感情を共有できる場としての「器」をつくり続けることなのだ。

【問い】
Q:あなたの内面は今、どのような状態にありますか? 「主体性」と「両価性」のバランスはどうでしょうか?
Q:バランスの崩れがあるとき、どのように調整することができるでしょうか?
Q:メンバーは今、チームの中でどのくらい内面を表現できているでしょうか?
彼らが難しい感情を表現できるようにするために、あなたはリーダーとして何を意識しますか?

(記事執筆:コーチ・エィ 椎根小稀)

この記事を周りの方へシェアしませんか?


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

リーダー/リーダーシップ 感情 自己認識

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事