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あなたは、誰によって今の自分になったのでしょうか

少しだけ立ち止まって考えてみてください。

今のあなたをつくった人は誰でしょうか?

恩師でしょうか。上司でしょうか。家族でしょうか。
あるいは、人生のある時期に出会った、ひとりの同僚や友人かもしれません。

その人は、あなたに何をしてくれたのでしょう?

仕事を教えてくれた。挑戦する機会を与えてくれた。厳しく叱ってくれた。
そうした関わりはもちろんのこと、考えている中でふと、誰かから言われた「言葉」を思い出す方もいるのではないでしょうか。

その言葉を境に、自分自身や世界の見え方が変わった。

私にも、そんな言葉があります。

「で、長田はどうしたいんだ?」

以前勤めていた会社で営業をしていた頃のことです。

ある取引先を担当していたとき、私は上司と取引先との間で苦しい時期を過ごしていました。
上司と私とでは考え方が違う。一方で、取引先にも事情や要望がある。その間に立ちながら、「上司はこう考えている」「取引先はこう言っている」と、それぞれの意向をどう調整するかに頭を悩ませていました。

そんな私に、あるとき上司が言いました。

「で、長田はどうしたいんだ?」

一瞬、答えに詰まりました。

それまでの私には、「自分がどうしたいか」という問いがなかったのです。
上司の考え。取引先の考え。会社としての判断。
それらを理解し、調整し、正解を見つけることが自分の仕事だと思っていました。
しかし、上司のこの一言によって初めて、その状況の中に「自分」という存在が現れたのです。

自分はどう考えるのか。
自分は何を実現したいのか。
自分は、この状況にどう関わりたいのか。

状況は何も変わっていないのに、世界の見え方が変わりました。
そして、この問いは、その後の私の仕事の仕方にも大きな影響を与えています。

人は、ひとりで自分をつくっているのではない

なぜ、誰かの一言が、その後の自分にまで影響を与えるのか。
この問いを考えるうえで、社会構成主義という考え方が一つの示唆を与えてくれます。

社会構成主義を代表する研究者ケネス・ガーゲンは、私たちが世界に与える「意味」は、個人の内側だけではなく、人と人との関係の中で生成されると考えます(※1)。

また、社会学者チャールズ・クーリーは「鏡に映った自己(Looking-Glass Self)」という概念を提示しました。他者のまなざしをひとつの鏡として、私たちは自分が何者であるかを理解していくという考え方です(※2)。

私たちは、自分という存在を、自分ひとりでつくっていると思いがちです。
しかし実際には、誰かからかけられた言葉や問い、期待やまなざしによって、「自分とは何者なのか」という理解を何度も更新しているのではないでしょうか。

私にとって、「で、長田はどうしたいんだ?」はそのひとつでした。
この問いによって、「周囲の意向を調整する自分」だけではなく、「自ら意思を持ち、状況に働きかける自分」という、それまでとは違う自己理解が生まれたのです。

私たちは、すでに誰かの自己構築に参加している

そう考えると、私たちは日々、意識しているかどうかにかかわらず、誰かの「自分とは何者か」という理解に影響を与えていることになります。

「君は慎重すぎる」と言われ続けた人と、「あなたは、簡単に結論を出さずに考え抜く人だ」と言われ続けた人では、自分自身に対する理解が違ってくるでしょう。
また、「まだ任せられない」と見られている人と、「次を担う人」として見られている人とでは、未来に対する構えも変わるはずです。

私たちは、言葉や問いかけ、さらには期待のかけ方、任せ方、日々どのようなまなざしを向けるかを通して、誰かの自己構築に参加しています。
そして同時に、自分自身もまた、周囲の人たちとの関係の中でつくられ続けているのです。

誰の自己構築に、どう参加するのか

そうだとしたら、私たちはもう少し意図的に、他者の自己構築に参加することができるのではないでしょうか。

目の前の人を、現在の姿だけで決めつけない。
「この人はこういう人だ」という、自分の中にある固定された理解を疑ってみる。

そして、
「この人には、まだどんな可能性があるのだろう?」
「本人もまだ気づいていないものは何だろう?」
「私は、この人にどのような問いを渡せるだろう?」

と考えてみる。

あのとき、上司が私に「で、長田はどうしたいんだ?」と問いかけなかったら、私は今とは少し違う自分になっていた気がします。
おそらく私たちの誰もが、そうした誰かの言葉や問いをいくつも受け取りながら、今ここにいるのでしょう。

自分をここまでつくってくれた人たち。
そして、これから自分が、その人の未来に関わっていく人たち。
私たちは、誰かによってつくられながら、同時に誰かをつくることに参加している。
そのことを自覚すると、人との関わり方は少し変わるのかもしれません。

あなたは、誰によって今の自分になったのでしょうか。
そして、
あなたは今日、誰の自己構築に参加するでしょうか。

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【参考資料】
※1 ケネス・J・ガーゲン (著)、 鮫島輝美 (訳)、東村知子 (訳)、『関係からはじまる―社会構成主義がひらく人間観』、ナカニシヤ出版、2020年
※2 Charles Horton Cooley, “Human Nature and the Social Order”, Charles Scribner’s Sons, 1902.

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