Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
あんなこといいな、から始まる未来
「……未来を語れないリーダーって、ダサいって思ってますよね?」
最近、クライアントからそんな言葉を投げかけられたことがあります。
その直前、私は勢いよくこう問いかけていました。
「会社の未来を、どうしていきたいですか? どんな成功をつくりたいですか?」
クライアントは体を右に左に傾けながらしばらく黙り込んでいます。沈黙の中、私はじっと待っていました。
すると、ぽつりとさきほどの言葉が出てきたのです。
一瞬、私は言葉に詰まりました。
……図星だったからです。
「水野さん、顔に出るからわかりやすいよね」
あまりにも核心を突いていて、ふたりで大爆笑しました。
もちろん「未来を語れないリーダーはダサい」とはっきり思っていたわけではありません。けれど、心のどこかで、未来を生き生きと語る人を「リーダーとして魅力的だな」と感じていたのだと思います。
未来を魅力的に語れる人=優れたリーダー
「私たちはこんな世界をつくる」と大きなビジョンを掲げる人。
スティーブ・ジョブズのように人を惹きつけるビジョナリーなリーダー。
そういう人をみて、「この人には未来が見えている、リーダーとして優れている、一緒にその未来を叶えたい」と思うことはないでしょうか。実際、経営者やリーダーには、未来を描くことが期待されています。ビジョンを示し、進む方向を明らかにし、人を動かす。未来を語ることは、リーダーの重要な役割のひとつです。
その一方で、未来が語れない、組織のビジョンを話すのは苦行というクライアントは少なくありません。そしてそんな自分をカッコ悪く思ってしまう……。私自身もまた、そんなリーダーのひとりだからこそ、「ダサい」発言を他人事とは思えませんでした。
大爆笑の後、クライアントがこうつぶやきました。
「でも、先のこと考えるのってホントは楽しかったはずなんだけどな。なんで何も言葉がでてこないんだろう」
なぜ何も言葉がでてこないのか
確かに、未来について考えるのは、本来、楽しいことではないでしょうか。
「こんなことができたらいいな」
「こんなふうになったら面白いな」
そんな想像をしているとき、未来は自由な可能性に満ちています。
ところが、そこに責任や評価が絡んだ瞬間に、未来は少し違うものに見えてきます。
何を目指すべきなのか、それは実現可能なのか、経営者としてまたリーダーとして、それを語るのは適切なのか、周りはどう評価するのか、そして、実現できなかったらどうするのか……。
経営者なのだから、実現可能な未来を語らなければならない。
リーダーなのだから、皆を導く未来を示さなければならない。
そんな使命感が、未来を考えることを「私はこうしたい」から「私はこうすべきであり、それが正しいと説明できなければならない」へと変えてしまう。そして、いつの間にか「正解」の未来を示すことにとらわれていく。そこにリーダーとして未来を描き語る苦しさがあるような気がします。
「未来を語る」ことにどう向き合うか
ところで、そもそも私たちが思い描く「未来」とは、どこから生まれてくるのでしょうか。それは、これまでの経験や、今置かれている環境、大切にしている価値観、そして、自分が世界をどう見ているかということと、深く結びついているのではないかと思います。
だとすれば、「未来」を言葉にできないのは、本人の中にある世界の見え方そのものがまだ十分に意識化されていないだけであり、もしかしたら、「自分は何を実現したいのか」という問いを、まだ自分自身の経営の中心に置いていないだけなのかもしれません。
また、経営環境が変われば、昨日の「こうしたい」は今日も同じとは限らず、むしろ変わっていいはずです。事業が成長すれば、見える景色は変わります。自分自身が変われば、実現したいことも変わります。リーダーにとって大切なのは、完璧な未来を描き切ってそれを語ることよりも、「自分は何を実現したいのか」、つまり未来に対する自分の意思を問い続けることなのだと思います。
そして、もうひとつ。
未来はひとりの人間が正解として持ちうるものなのでしょうか。
組織というのは、異なる世界を見ている人たちがひとつの現実を共有している場所ともいえます。同じ出来事を見ても、立場や経験が違えば、そこから見える世界は違うのです。だとすれば、未来についても、見え方が違って当然です。リーダーが語る未来は、むしろ完成された答えでないほうがいいのかもしれません。
「こんなことが実現したら面白いな、と思っているんだ」
「今はまだ明確な言葉になっていないけれど、なんだかこちらの方向に可能性を感じるんだ」
リーダーが未完成な想いを差し出し、「あなたには、どう見えている?」と問う。
すると、誰かが「私にはこう見えますよ」と応じるかもしれない。
また別の誰かが「それなら、こんな可能性もあるんじゃないでしょうか」と加えるかもしれない。
そうして、それを一緒に実現していく人たちとの対話が生まれてゆく。
異なる世界を見ている人たちが、それぞれの視点を持ち寄るからこそ、組織には自分ひとりでは見えていなかった未来が生まれる可能性があります。そう考えると、未来を語ることへの向き合い方も、少し変わってくるのではないでしょうか。
未来を語ることは、正解を約束することではありません。自分が何を実現したいと感じているのかを問い続け、異なる世界を見ている人たちと、その可能性を育てていくことなのだと私は思うのです。
魅力的に語れなくてもいい。
「あんなこといいな、できたらいいな」から始めればいい。
途中で変わってもいい。
誰かと話すことで、思ってもみなかった未来が見えてくるかもしれない。
やっぱり、未来を考えることって楽しい。
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