Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。
言葉にならなかったものはどこに行くのか
組織において、メンバーが率直に意見を表明することの重要性は広く認識されている。2023年のハーバード・ビジネス・レビューの記事、“Building a Culture Where Employees Feel Free to Speak Up”でも、あらゆる階層の従業員が声を上げることで、現場の知識が組織全体で共有され、新たなアイディアが生まれやすくなることが示されている(※1)。
多くの組織で、そうした声を引き出そうと、1on1や対話の機会が設けられている。それでもなお、組織の中で「何かが言葉にならないまま残っている」と感じることはないだろうか。
言葉になりかけていたものは、なぜ語られないのか。そして、どこへ行くのだろうか。
なぜ言葉にならないのか
私たちはしばしば、「言いたいことはすでに存在していて、それを言うか言わないかを自分で選んでいる」と考える。
しかし、「Research Policy」に掲載された研究、”Conversations and Idea Generation: Evidence from a Field Experiment” では、良いアイディアは個人の能力だけで決まるのではなく、会話を通じて得られる情報や視点の影響を受けると指摘されている(※2)。だとすると、アイディアを構成している私たちの言葉もまた、対話や関係性の中で形づくられているのではないだろうか。
2024年にハーバード・ビジネス・レビューに掲載された、”When a Team Member Speaks Up — and It Doesn’t Go Well” では、改善提案を上司に十分に受け止められず、「もう二度と発言しない」と感じるようになったメンバーの事例が紹介されている(※3)。著者らは、発言がうまくいかなかった経験が、自分自身を沈黙させ、さらには他者まで沈黙させ、その結果、チームが徐々にフィードバックやリスクテイクの習慣を失っていくことを指摘している。
つまり、「言わない」は単なる個人の選択ではない。言葉になりかけていた想いや意見は、ある瞬間に消えてしまうわけではなく、日々のやり取りの積み重ねの中で、言葉になる機会を失いながら、少しずつ表に現れなくなっていくのである。
言葉にならなかったものの行方
言葉にできなかったり、意見を共有できなかったりした体験は、「この場では本音を言わないほうがよい」「この話題には踏み込まないほうがよい」という感覚として組織の中に残ることがある。それらはやがて暗黙の了解となり、次に誰かが言葉にしようとするときの判断、さらには組織のコミュニケーションのあり方にも影響を与えていくだろう。
私たちはときに、「部下が話してくれない」「メンバーが本音を言わない」と感じることがあるが、その背景には、これまで発せられた声がどのように扱われてきたのかという経験の積み重ねがあるのではないか。誰かの発言にどう応答するのか。その日々の関わりが、「ここではどのような言葉が歓迎されるのか」を伝えている。組織の未来を形づくるのは、語られた言葉だけではない。言葉にならなかった想いや意見もまた、組織の文化を静かにつくり続け、消えることなく別の形で組織の中に残っていくのだ。
Q. あなたの組織には、どんな「言葉にならないまま残っているもの」があるだろうか?
Q. あなたのどのような関わりが、周囲の想いや意見を言葉にしやすく、あるいはしにくくしているのだろうか。
(記事執筆:コーチ・エィ 志賀)
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【参考文献】
※1 Timothy R. Clark, “Building a Culture Where Employees Feel Free to Speak Up”, Harvard Business Review, August 16, 2023
※2 Sharique Hasan, and Rembrand Koning, “Conversations and Idea Generation: Evidence from a Field Experiment”, Research Policy, November 2019
※3 Megan Reitz, and Amy C. Edmondson, “When a Team Member Speaks Up — and It Doesn’t Go Well”, Harvard Business Review, July 12, 2024
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