Coach's VIEW

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「やらないこと」を決める

私たちのチームは、今年2月から、あるテーマについて週に2回集まって話し合っています。

それは、「今週、何をやらないか」。

月曜日に一人ひとつずつ、「今週、やらないこと」を決めてみんなと共有し、金曜日に再び集まって振り返りをする。時間にして、わずか15分ほど。

チームの「忙しさ」解消のために始めたこの小さな取り組みが、今、チームを大きく変えつつあります。

チームが抱える「忙しさ」との苦闘

昨年末、私はチームに大きな危機感を抱きました。

ちょうどそのころ、停滞気味だった担当事業が軌道に乗り、新たな展開も決定。流れとしては、プラス転換が起き、業務や取り組みがどんどん増えていく。にもかかわらず、チームはすでに既存業務に忙殺され手一杯でした。

このままでは、インシデントやバーンアウトなど、何かしら問題が起きる。そう直感した私は、メンバーと個別に仕事量や業務内容を確認しつつ、誰に何を注力してほしいのかをチームミーティングで伝え、業務整理を行いました。

するといったんは業務も落ち着き、忙しさは軽減するのですが、いつのまにか空けたはずのスペースがまた別の業務でいっぱいに…。業務整理を何度しても、結局は元に戻る。

この繰り返しの中で気づいたのは、「やらない」ということの難しさ、その背景には「関係性」への配慮があるということでした。

なぜ「やらない」は、難しいのか

上司や周囲の期待に応えたい。
自分がやらないと、他の人がやることになるから仕方がない。
みんなやっているから私もやらなくてはいけない。

「やめられない仕事」の背景には、こうした関わる人との「関係性」への想いが存在していることが多いのではないでしょうか。

これは、真面目で責任感が強いメンバーにこそ顕著です。
特に「頼まれたことは全部やるのが良いこと」という価値観がある場合、

  • 頼まれたら、引き受けるべき
  • 手を抜かない=全部やること
  • 頼まれる=必要とされている

という考えに縛られやすくなります。それが組織内で暗黙の了解になっていれば、なおさらです。

いくらリーダーが、「このチームはここに集中したい」「あなたにはここに力を向けてほしい」と具体的に方針を示し、「やらない」判断の重要性を説き促しても、現場が変わらないのはこのためです。

「やらない」決断ができるかどうかは、「個人の能力」と考えがちですが、「関係性の問題」が大きく関わっています。

そこで試すことにしたのが、冒頭で紹介した取り組みです。

チームで取り組む「やらない」実践

週のはじめに「やらない」ことを一人ひとつずつ決めてチームで共有する。この取り組みを始めるに際し、まず行ったのが価値観の転換です。私たちのチームにも無意識のうちに「全部やるのが良いこと」という価値観が漂っていました。そこで、「必ずしも全部やらなくていい」とはっきり言葉で伝え、「誠実な仕事」とは「価値のあることに集中すること」であるという新しい価値観をチームで共有しました。

そして、「やらないこと」を決めるための次のような問いを共有しました。

「今年の自分/チームの最重要テーマと関係があるか?」
「チームの目的に照らして、どのくらい重要か?」
「実現レベルは80%で十分か、それとも100%が必要か?」

その上で、私自身もいちメンバーとして参加し、次の実践を始めました。

  • 月曜日にチームで集まり、「今週、何をやらないか」を各自ひとつ決め、その理由とともに全員で共有する。
  • 週の途中は、その「やらない」について、「手を出していない?」「あっ、やっちゃっているよ!」という風にお互いに声をかけ合う。
  • 金曜日に再びチームで集まり、1週間を振り返り、どうだったか、何が起きたかを共有する。

取り組むのは、「今週は、●●について考えることをやめる」「先送りしてきた●●企画を明日までに進められなかったら今回はやめる」といった小さな「やらない」です。大きな「やめる」は、関係者も多く、難しいものです。まずは影響の範囲も小さく、やめやすいものから始めました。

一つひとつは小さくても、みんなで積み上げると意外と大きくなるものです。続けることでチームに少しずつ余裕が生まれました。

正直なところ、リーダーとしては「できれば、それはやってほしい…」と思うこともありました。しかし、ここでリーダーの意向を優先させてしまえば、また「関係性」への配慮でやめられないという循環に陥ります。影響が大きくなければ、ぐっと我慢して、本人の意志を尊重しました。

「やらない」を決めるプロセスは、「関係性」の再設計である

また、「やらない」実践の過程では、次のような問いもチームで共有しました。

「私たちは、そもそも何のために仕事をしているチームなのか?」
「どのようなチームでありたいのか?」
「私たちだけでやりきれないことは何か?」
「誰に、助けを求めるのか?」

こうした問いと共に、「やらない」を決める取り組みを積み重ねること1か月。チーム自体にも変化が起こり始めました。

毎週、チームメンバーの状況を知ることで、「何かサポートできることはありますか?」と声をかけ合うようになったり、「全部やることが良いこと」という価値観を手放せなかったメンバーも自分が抱え込むことで全体戦略に影響が生じていることを認識し、「助けてほしい」と本人から言えるようになったのです。

こうして、お互い助け合い、軽やかに前進することで、新規営業先が増えるなど、具体的な業務成果も出るようになりました。

「やらない」を決めるプロセスでは、関係性の再設計や成熟が起こり、信頼関係の土台が育まれるのだと感じました。

さらに、この取り組みはもうひとつ大きな変化をもたらしました。

「やらないことを決める」ことは、「リーダーシップ」を開発すること

毎週の取り組みを通して感じたのは、メンバーそれぞれの意志と主体性の高まりです。

限られた時間とエネルギーの中で、何を「やらない」のかをはっきりさせることは、裏返せば何を「やりたい」のかを明確にすることでもあります。

自分の「意志」に沿って、「やること」「やらないこと」を選び、その責任を自分に引き寄せる。その小さな積み重ねが、結果としてメンバーの主体性を育んだのです。

ふと、幼少時の母との記憶を思い出しました。
子どものころから、母は私にやりたいことは何でも「いいよ」とやらせてくれました。ただ、やめるときは、すぐに「いいよ」とは言いませんでした。代わりに母が私に求めたのは、「なぜやめたいのかをはっきりさせること」「やめるのは、誰かのせいではなく、あなた自身の責任にすること」「やめる理由を相手に自分で伝えて来ること」。その上で、母は私の選択をいつも100%尊重してくれました。

リーダーシップは、主体的に考え・選び・責任を引き受ける経験を通して開発されます。

「やらない」の判断を上司が代わりに引き受けるのではなく、いかに本人たちに選択を任せ、伴走するか。それが問われているのではないでしょうか。

「やらないことを決める」という取り組みは、生産性の向上に留まらず、チームの関係性を成熟させ、同時にメンバーのリーダーシップを開発する可能性を秘めた、人と組織を成長させるためにとても重要なテーマなのだと思います。

 

《関連資料》

【講演録】戦略を「語る組織」から 「共に創り、実行する組織」へ~組織における共有型リーダーシップ(Shared Leadership)の 必要性と実装モデル~

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