Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


リーダーシップ開発をリスクにさらす決定的な要因

先日、ある企業のHRの方から、エグゼクティブ・コーチングの依頼をいただきました。

社長候補の人材に、リーダーシップ上の明らかな課題があり、その課題を修正するためにエグゼクティブ・コーチングを活用したいという要望でした。

気になったので、率直にお聞きしました。

「その方の開発責任は、誰にありますか?
開発責任者は、ご本人に課題を伝えていますか?」

すると、HRの方は、ハッとされた顔でこう答えました。

「HRとして、私は課題を伝えているつもりですが…
でも本当は、上司であるCEOが言うべきですよね…」

差し迫った課題のようでしたので力になりたいことはお伝えしつつ、まずはCEOと本人で対話をし、その上で改めてエグゼクティブ・コーチングへの投資判断をされてはどうか、と提案しました。

避けられていること

有望な人材が問題を抱えたまま、本人もそのチームも成長が阻害されている。その問題を解決する手段として、外部からコーチングを処方する。このアプローチで、今起きている現象的な課題は沈静化するかもしれません。しかし、それでは同様の問題が再発するでしょう。

後継リーダーを創るための取り組みは、サクセション・プランニングの枠組みと同時に、問題意識を持つ者同士の真剣な対話があって初めて機能します。

つまり、「リーダーがリーダーを開発する」というシステムが社内で機能していない限り、うまくいきません。

たとえば、

「あなたのリーダーとしての成長課題は何か?」

こうしたテーマについて、あなたが上司と、もしくは部下との間で、真正面から対話を交わしたのはいつでしょうか?面談のときなどに質問することはあっても、案外、一歩踏み込んでの対話はされていない、あるいは、対話が先延ばしにされていることが多いのではないでしょうか。

こうした対話の「不在」「遅れ」がトップマネジメント層から生まれているのを、エグゼクティブコーチとして目撃することが少なくありません。

リーダーシップ開発の外注化

最近、指名委員会の方々と、意見交換する機会が増えています。

先日は、ある会社の指名委員会で、後継者候補のリーダーシップ開発に関して、エグゼクティブ・コーチングの可能性を意見交換しました。場の雰囲気は非常に好意的に進み、最後、何から始めるべきか尋ねられたので、私はこうお伝えしました。

「なぜコーチングの機会を提供するのか、日頃感じているリーダーシップの可能性、そして懸念も含めた課題を、まずは皆さんが候補者一人ひとりに率直に伝え、しっかりと対話することです」

皆さんの顔色が、一気に変わりました。

「本当に思っていることを言ったら、候補者との関係性が崩れるのではないか?」
「普段、そのようなことをしていないのに、唐突ではないのか?」

そんな質問も出始めました。

これは、珍しいことではありません。
確かに難しいことだとも理解できます。

しかし、私は、次の点を率直に共有しました。

  • 緊張を伴うコミュニケーションのリスクを避けることで、次の経営人材が開発されないという、より大きなリスクが生まれる
  • エグゼクティブ・コーチングは、リーダーシップ開発の促進機会ではあるが、リーダーシップ開発の外注であるべきではない。トップがコミュニケーションのリスクを避けて、自ら言うべきことを言わずに他者に依存すれば、下もそれを真似るようになる
  • リーダーがリーダーを開発するための実質的な対話は、トップマネジメントから取り組むべき課題である。リーダーが次のリーダーに真剣に向き合うことはエンゲージメントの源となり、組織文化の一部として上から下へと浸透していく。

「今ここ」で率直に伝え続ける

先日、CEOとして地道かつ創造的な後継者開発の取り組みをされていた元クライアントにお会いし、その秘訣をお聞きしました。

手堅いアプローチだと思いますので、ご紹介します。

  • 後継候補との間に、明確な基準をおくために、経営者として必要なコンピテンシーを自ら言葉にし、その共有から始める
  • 毎月、そのコンピテンシーリストを間において1on1を実施する
  • その際、CEOから見えている候補者のコンピテンシースコアを、理由と共にはっきりと伝える
  • 合わせて、どう変わってほしいかを、期待値とともに明確に伝える。
    ただ、それを受けてどうするかの選択は、本人に留保する

言うべきことは、「今ここ」で率直に伝え続ける。加えて、自身がコーチングで体験した聞き方や問い方も取り入れながら対話していたそうです。

最終的に、当初は有力候補ではなかった最年少の女性リーダーを後継に選んだとのこと。コンピテンシーリストを間に毎月やりとりする中で、後継者に求めることもより明確になっていき、「この人だ!」と確信したそうです。そして今、彼女はCEOとしておおいに力を発揮しています。

実は、このアプローチを私も自社内で実践しています。目的は「次世代リーダーの開発」。まずは基準を共有し合うべく、リーダー候補5名と共に「リーダーのコンピテンシー」の言語化に取り組み始めたところです。

リーダー不足をもたらす致命的な要因

「役員たるもの、自分の成長テーマは自分で気づくべき」

これまで、多くのCEO・経営幹部から、この言葉を聞いてきました。

当初、そういうものか、と私自身も思ったところもありました。しかし、エグゼクティブコーチとしての経験を通して、次の2つの観点から、それは違うと思うようになりました。

1つ目は、自分のことを気づくのは、どんな人でも難しく、限界もあるという点です。

実際のところ、経営リーダーの多くが自らのリーダーシップの現状や課題についてはっきりとは見えておらず、リサーチを実施しても周囲との見解にギャップがあることが少なくありません。

2つ目は、そもそも役員の開発責任はCEOにもあるという点です。

にも関わらず、多くのCEOは、部下の経営陣に何らかの不満・課題感を持っていても、しかも、CEOだからこそ気づける開発ポイントやリスクに気づいていても、そのことについて、直接、本人と対話することを躊躇しています。

特に2つ目は、顕著に感じる点です。

「あなたのリーダーシップの課題は何か?」

そのことを、正面から役員に対して話すことを想像したとき、何らかの防衛反応と言い訳が生まれるのは、私自身もとても理解できます。しかし、この対話にリスクテイクしないことが、組織にリーダー不足をもたらす、致命的なリスクを生み出す一因だと私は感じています。

気づいている人が言うべきことを言わない、言えない。トップがそうである限り、下もそれに倣います。それでは、組織も人も成長しようがありません。

対話のリスクテイクを回避し、人事制度の構築や、エグゼクティブコーチの外注に向かう前に、自問してみる価値はありそうです。

 

《関連資料》【講演録】リーダーが生まれない会社の特徴とは

 

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