Easterlies


AI時代、人と人の間で編みなおされるもの

皆さんは日々、どれほど生成AIを活用していますか。
多くの人が活用しているであろう対話型AIは、こちらの問いに応答したり、文章を整えたりアイディアを生成してくれたりします。まるで人間のようにやりとりしてくれるので、自分の「言葉になっていない違和感や感情」を日常的に対話型AIに投げかけている人も多くなっているのではないでしょうか。AIは今、単なる便利ツールではなく、気軽に私たちの考えや感情を言葉にする 「対話の相手」のような存在になりつつあります。

電通が実施した2025年の調査では、「対話型AIに気軽に感情を共有できるか」 という問いに対して、対話型AIを週1回以上使う人の64.9%が、「共有できる」と回答しました(①)。これを「気軽に感情を共有できる」他の選択肢と比較すると、「親友」64.6%、「母」62.7%とほぼ同水準であり、AIがすでに一部の人々にとって、感情を共有する相手として認識され始めていることを示しています。

では、AIがこれほど自然に私たちの思考や内省を支えてくれる時代に、 人と人が関わり対話し続ける価値はどんなところにあるのでしょうか?

今回のEasterliesでは、この問いをmeaning-making、すなわち「意味づけ」の観点から、探索していきます。

AIは「私」の意味づけを整える

人は、日々起きている出来事をそのまま受け取っているのではない。自分の経験、感情、価値観、関係性を通じて、目の前の出来事を解釈している。同じ言葉であっても、誰が語るのか、どのような関係の中で語られるのか、どのような記憶や感情に触れるのかによって、その出来事の意味は変わる。
成人発達理論の研究者であるロバート・キーガンは、人間をmeaning-making(意味づけ)する存在としてとらえた。人は世界をそのまま見ているのではなく、出来事に意味を与えながら、自分自身、他者、世界との関係を組み立てている存在である、という見方である(②)。
しかし、「意味づけ」の中で、自分が何を感じ、何を考えているのかがわからなくなったり、曖昧さを抱えたりすることはないだろうか。そんなときこそ、AIの出番である。
AIに自分の混沌とした感情や考えを吐き出す。すると「あなたは今こういう状態で、こんな感情を抱えているのではないでしょうか」といった整理をしてくれる。曖昧だった自分の感情や考えが次第に輪郭を帯びてくる。そこでようやく「自分は何を感じているのか? 何に引っかかっているのか? 何を大切にしたいのか? 他にどのような見方があり得るのか?」といった問いに向き合うことができる。AIはこのようにして「私」の意味づけを整えてくれるのだ。
AIとの対話でも、人との対話でも、扱われる問いそのものが大きく異なるわけではない。しかし、AIとの対話では、問いは自分の内側に閉じがちである一方、人との対話では閉じないという特徴がある。自分が相手に投げた問いは、相手の経験や感情、価値観に触れ、相手の解釈を通じて反応や問いとして返ってくるからである。

人との対話は意味を揺さぶる

人との対話は、必ずしも滑らかではない。こちらの意図とは異なる受け取り方をされたり、沈黙が生まれたり、違和感が残ることもある。AIとの対話では整理できていたはずのものが、相手の反応に触れた瞬間、摩擦が生じ、不確かなものとしてふたたび立ち上がることがある。

たとえば、当然だと思っていた前提、よかれと思っていた関わり方、相手のためだと信じてかけた言葉。それらについて、対話の相手は全く別のとらえ方や意味づけをしていて驚くこともある。私たちはしばしば、こうした摩擦を避けようとしがちである。けれども人と人が対話し、関わり続ける価値はむしろこの摩擦の中にあるのではないだろうか。

組織に目を向けても、同じことが起きている。経営が「変革のスピードを上げる」と語るとき、その言葉は、どのような意味としてとらえられるだろうか。経営と現場では、それぞれ別の現実がある。同じ「変革」という言葉であっても、経営にとっては、変化する市場の中で組織の進む先を定める言葉を意味するかもしれない。一方で、現場にとっては、大きな変化への戸惑いや不安、時には抵抗、そして期待を伴いながら、自分たちの仕事や役割をとらえ直す言葉になることがある。

すなわち、人との対話は、自分の言葉が相手の中でどのように意味を帯びたのかを知る場でもある。そして、その反応や相手からの返答に触れることで、自分自身の意味づけもまた問い直され、揺さぶられるのである。

「私」の意味づけから、「私たち」の意味づけへ

対話において生まれる意味は、どちらか一方の内側にだけ生じるものではない。私の言葉が、あなたの見方に触れる。あなたの反応が、私の前提を揺さぶる。その往復の中で、双方の見方が変化し、それぞれの内側に、それまで一人では持ち得なかった意味が立ち上がってくる。

ここには、「私」の意味づけから「私たち」の意味づけへの移行がある。それは、誰かが意味を提示し、もう一方がそれを理解する ということではない。互いの見方が触れ合い、前提が問い直され、時には緊張を含みながら、新しい意味が生まれていく。こうしたことは、特別な対話の中だけで起きるのではない。日々の会議、1on1、何気ない相談、家族や友人との会話の中でも起きている。

人と人が関わるとは、この「意味を動かす場に関わり続ける」ということなのだ。AIとの対話が、「私」の内側を整えるものだとすれば、人との対話は、「私たち」の間にある意味を動かしていく営みなのである。

「リーダーシップ」とは「意味づけの営み」である

では、リーダーシップにおいて、意味づけはどのようにとらえられるだろうか。

スタンフォード大学経営大学院 組織行動学の教授であるBrian Lowery氏は、リーダーシップを「意味づけの営み」としてとらえる視点を示した(※3)。

「リーダーは、ただ周囲にタスクを割り振る存在ではない。『仕事はなぜ重要なのか』『あなた自身の役割は一体何か』『この成果は誰にどう影響するのか』といった問いを通じて、自分の仕事や組織、未来とのつながりを見出せるように関わる存在である。これからのリーダーに求められるのは、まさにこうした意味の繋がりを生み出す力である 」と述べている。

この彼の視点に照らし合わせると、リーダーシップとは誰かに正しい意味を与えることではなく、メンバーへ問いかけ、対話を通じてメンバーの意味づけを共有し、ときにはその意味づけに自らも揺さぶられながら、共に新しい「私たち」の意味を創っていく営みともいえる。

常識が短期間で更新される時代において、仕事や組織を前に進める鍵は、変化が生まれる場にとどまり続けることにある。前提が食い違う状況から逃げず、対話をし続けることで、一人では見えなかった新たな意味が立ち上がる。AI時代において、リーダーに限らず私たちすべてに問われているのは、摩擦を恐れず、新しい意味が編み出される場に関わり続けること。 そこにこそ、人と人が対話し続け、関わり合うことの価値があるのではないだろうか。

【問い】

  • あなたが最近、誰かとの対話の中で、自分の前提が揺さぶられた瞬間はありましたか?
  • その揺さぶりは、あなたに何を見直す機会をもたらしたでしょうか?
  • 今、誰とどのような「意味」を、共に編み直す必要があるでしょうか?

 

(記事執筆:コーチ・エィ 山田里紗)

 

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【参考文献】
※1 「対話型AI」に感情を共有できる人は64.9% 「親友」「母」に並ぶ”第3の仲間”,に、株式会社電通、2025年7月3日
※2 Michael Ignelzi, “Meaning-Making in the Learning and Teaching Process”, p6, EBSCO Publishing, 2003
(Kegan, R. The Evolving Self: Problem and Process in Human Development. Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 1982.)

※3 Lowery, Brian, “Leadership as Meaning-Making”, 16th Annual Coaching in Leadership & Healthcare Conference, Institute of Coaching, 5/1-2, 2026

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