医療/福祉現場での対話の価値

制度・仕組みだけでは解決できない複雑な問題に対しリーダーができることは何か。自らコーチングを学び、周囲を対話に招き入れ、組織力やチームワークの向上に尽力する医療/福祉現場のリーダーに迫る。


帝人訪問看護ステーション株式会社 代表取締役社長 月坂学氏 インタビュー
「感動のタネ」を全国へ。
患者さんの「最後に叶えたい思い」を実現する組織づくり

第1章 離職率30%超から10%未満へ。対話が変えた組織づくり

帝人訪問看護ステーション株式会社では、かつて離職率が30%に達していました。代表取締役社長の月坂学氏は、離職率を下げるためにさまざまな取り組みを進める中で限界を感じ、コーチングの必要性を痛感されたといいます。そこで導入したのが、対話型組織開発を推進するサービス「DCD(Driving Corporate Dynamism、以下DCD)」です。月坂氏自身がコーチングを学び、社内でコーチングを実践する「インターナルコーチ」となり、本社と各拠点のリーダーにコーチングを実践。同時に、本社と拠点のリーダーたちが「組織変革を促す対話」を共に学び、実践する「3分間コーチ」ワークショップにも参加しながら、コーチングプロジェクトを進めてきました。その結果、現在では離職率を10%未満に抑えられています。本インタビューでは、月坂氏が大切にしている思いや考えを伺いました。

内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
写真提供:月坂学氏

第1章
離職率30%超から10%未満へ。対話が変えた組織づくり
第2章
患者さんの満足が、地域に信頼を広げていく

在宅医療における「満足」とは何か

―まず、訪問看護事業において、月坂さんが最も大切にしていることは何でしょうか。

月坂 根底にあるのは、どうしたら在宅医療を受けている患者さんが満足してくれるか、というところです。その満足とは、お金を払う付加価値であると思っています。患者さんは医療に対して、治癒や寛解を期待して対価を支払うという側面がありますよね。そうすると、治癒や寛解に向けて、医療サービスが正確で、ミスがないことが満足のポイントになる。でも、在宅医療を受けている人たちは、もう治らない方も多い。では、治癒や寛解がない中で、そこにプラスアルファの価値をどう付けられるのか。その人が最後に叶えたい思いを掴んで、それを叶えることが一番重要だというのが、私の発想の出発点です。

離職率30%超から、10%未満へ
データと品質改善と内発的動機をつなぐために、必要だったシステミック・コーチングTM

―月坂さんは、これまで組織づくりをどのように進めてきたのでしょうか。

月坂 私は帝人グループの中で、さまざまな仕事をしてきましたが、医療サービスに関わるのは初めてでした。社長として、訪問看護事業を担当し始めた時は、右も左も分からない状態でした。まずは会社として安定的に運営できる状態をつくることが第一だと考えました。人事や総務を整え、仕事がしっかり回るようにし、患者さんを獲得する。そして採用した人が定着し、離職しない状態をつくる。そこが出発点でした。それらがある程度クリアできた今は、次のステップとして高品質なケアを生むための施策に取り組んでいます。さらにその先には店舗数を増やすことも見据えています。

―その中で、当社のシステミック・コーチングTM(*)を取り入れようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

月坂 最初の課題は、離職率が30%以上あったことです。特に、入職してすぐの人たちの離職率が高い状態でした。理由を聞くと、上の人との壁がある、話しづらい、雰囲気がよくない、といったコメントがかなり多かったんです。離職率を下げるためにさまざまな取り組みを行ってきましたが、自分たちの力だけで対応することに限界を感じていました。職員が生き生きと働く上でも、コーチングの必要性を痛感しました。
※特定の個人や部署の開発にとどまらず、組織全体の変革を目指すコーチングのアプローチ。

―システミック・コーチングTMを取り入れて、実際に職員満足度や離職率には変化がありましたか。

月坂 DCDを導入したことで、現在では離職率が10%未満に抑えられています。そして、ステーションの実績も急上昇しています。名古屋などでは、スタッフを追加で採用しないと回らないくらい患者さんの方が増えました。でも採用しようとすると、今度は引越しが必要なほど、施設が手狭になりました。エンゲージメントサーベイも急激に上がり、新しいアイディア募集には、4件も5件も出てくるようになりました。スタッフの内発的動機にも、どんどんアプローチできている実感があります。

―高品質なケアを生むために、具体的にはどのような仕組みをつくっているのでしょうか。

月坂 全体戦略としては、データと品質管理と改善体制の融合だと考えています。「質の高いケアを提供しています」と自分たちが思っているだけではなく、患者さんやケアマネジャーさんからどう評価されているのか、その評価が実績にどう反映されているのかを見る必要があります。データを見ると、うまくいっていないところも見えるようになるのでそこを改善していく。そうしたサイクルを回していくことが大切です。そのために、組織機能として「企画」と「DX」をつくりました。「企画」は、現場の人たちから出てくる「こんなケアをしたい」という声を形にする役割です。「DX」は、さまざまなデータをダッシュボード化し、現場の人たちがそのデータを見ながらディスカッションできるようにする役割です。さらに現場には、データを見て、改善し、教育し、再実行するPDCAを定着させる役割として、「QCE(Quality Care Enhancing)」という役割をつくりました。

―その中で、システミック・コーチングTMはどのような役割を果たしているのでしょうか。

月坂 データ分析による改善活動をしていくことで、組織はビジョンの達成に向かっていきます。ただ、そもそもスタッフの働きがいを高める組織風土の醸成がないと、全体のつながりはできません。その一丁目一番地がコーチングだと思っています。コーチングによって内発的動機が喚起される。そうすると、学び続ける組織になり、感動を届けられるようになる。キャリア支援を通じて、スタッフが学びながら成長し、感動を届ける人材になっていく。それが相乗効果を生み、全体が回っていくのだと思っています。

―コーチングによって、マネジメントにも変化が求められたのでしょうか。

月坂 コーチングをすると、マネジメントのやり方を変えないといけないことに気づきます。スタッフから前向きな声がたくさん上がってきた時に、それを拾ってあげないと、「結局変わらないよね」と思われてしまいます。逆に、それを形にしてあげれば、スタッフはより頑張ってくれます。コミュニケーションがあちこちで起こるのは良いことですが、そこで終わらせず、そのコミュニケーションから価値が生まれるようにデザインするのがマネジメントの大事な役割です。1対1のやり取りだけであれば、今後はAIでも十分に担えるようになっていくのかもしれません。だからこそ、人と人との対話を組織全体の変化につなげていくことが、これからのコーチングの価値になるのだと思います。

システミック(組織やシステム全体に働きかけること)をどうとらえるかによって、マネジメントのやり方も変わると考えます。一つのステーションの中でシステミックにしたいのか、会社全体でシステミックにしたいのか。私たちの場合は、会社全体で取り組む方がとてもメリットがあります。どこかにすごい職人がいる、すごく何かに長けた人がいるとき、その知識を横に広げたいという視点でマネジメントすると、成果はすごく上がると思っています。現場で生まれる小さな感動のタネを拾い、形にし、横に広げていく。その積み重ねが、患者さん、ケアマネジャー、スタッフ、そして組織の間に信頼の連鎖を生み出していくと考えています。
(後編に続く)
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※帝人訪問看護ステーション株式会社様で活用したプログラムの詳細はこちらからご覧ください

DCD(Driving Corporate Dynamism)
組織全体の力を引き出すリーダーを「開発」する

3分間コーチ
対話の「体験」を通じて、コミュニケーションに対する解釈や目的を変える

 


プロフィール

月坂 学氏
帝人訪問看護ステーション株式会社 代表取締役社長

帝人に入社後、在宅医療機器の営業として医療機関や地域医療との連携に従事。その後、本社で事業企画・経営に携わり、現在は帝人訪問看護ステーション株式会社の代表取締役を務める。コーチングを軸とした組織開発に取り組み、一人ひとりの強みや思いを引き出しながら、対話を通じて組織の一体感と主体性を育む風土づくりを推進。質の高い在宅医療の実現と、働く人が成長を実感できる組織づくりに挑戦している。


大塚志保

聞き手:大塚志保
株式会社コーチ・エィ 執行役員
編集:Hello, Coaching! 編集部

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