Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
コーチングを活かす「使い方」、活かさぬ「使い方」
「コーチング導入の失敗事例ってないんですか?」
経営幹部が集まる場でのプレゼンテーションで、必ずと言ってよいほど出る質問です。
そんなとき、私は、なるべく率直に自身の失敗体験などもシェアしつつ、結論として、コーチングが失敗するとき、その多くは「使い方」に問題があることをお伝えしています。
コーチングの企業導入が普及していく中で、私たちコーチに問われることの重心が、「コーチングとは一体何か?」から「コーチングはどう有効活用できるのか?」へと移ってきていると感じています。
今回は、そうした「使い方」についての留意点を5つ、事例を交えながらご紹介します。
その1:必要なのは本当にコーチングか?
あるとき、クライアントのCEOから、買収後の組織統合の過程で多国籍の経営幹部たちをコーチングして欲しいという依頼がありました。
確かにコーチングは、そうした局面で有効な方法のひとつです。
ただ、私は CEO の本当の動機が気になり、何度も尋ねてみました。
その結果分かったのは、コーチングへの期待が、反旗を翻す恐れのある米国人副社長の抑え込みにあることでした。その副社長は、買収した組織で強い政治力を持ってきた人材だったのです。
私は、経営幹部全員が下記の2点について明確に「Yes」でなければお手伝いはできないと伝え、その確認をCEOにお願いしました。
「CEOが提示する経営の価値観・ビジョンに本当に共感しているか?」
「CEOがオファーするコーチング・プロジェクトにフルコミットメントで参加するか?」
案の定、半分以上の経営幹部が曖昧な回答だったようです。
4か月後、再び打ち合わせの機会を持ったとき、副社長とその取り巻きの幹部たちは全員退職し、新たな経営チームが立ち上がっていました。そのチームに、CEOは安心と自信を抱いていました。
必要だったのは、CEOが直接、「私と一緒にやるか」と腹をわって対話することでした。
コーチングではなかったのです。
その2:「今」なのか?
先日、「コーチングのベストなタイミングはいつか?」について、シリコンバレーのテック企業で社内コーチをしている人物と議論しました。
彼自身は、社内で主に次の4つの局面でコーチングすることを依頼されるそうです。
- サクセッション(次のリーダーを計画的に育てること)
- オンボーディング(新しく入った人が早く活躍できるようにすること)
- トランジション(役割や立場の変化をスムーズに乗り越えること)
- キャリアチェンジ(新しい仕事やキャリアに挑戦すること)
仕事内容、働く場所、ポジション、利害関係者の変化。
これまでのやり方や前提を見直すべき変化の時こそ、コーチングは最も力を発揮します。
特に「タフなアサインメントの局面」において、コーチングのROI(費用対効果)は高まります。
逆に、変化に乏しい環境下にある方にとっては、コーチングによる支援の必要性は見出しづらいかもしれません。
私自身、コーチングを学び始めたころ、何でもコーチングで解決しようと状況に合わない場面でもコーチ的な関わり方をしてしまい、結果として相手に遠回りをさせてしまいました。
機能する時を解像度高く捉えてこそ、コーチングは機能します。
その3:誰から始めるか?
先日、ある企業の指名委員会で、「後継人材開発にコーチングは有効か」について議論する機会がありました。
私は単刀直入に尋ねました。
「皆さんの組織で、このテーマが問題になってきた背景は?」
一瞬、場の空気が変わり緊張が走り、その後、率直で活発な議論が始まりました。
その中で次のことがはっきりしてきました。
今の経営幹部チームは、各分野ごとのエキスパートの集まりであること。
「経営リーダーを開発することが上司の仕事である」というコンセンサスがないこと。
彼らはさらにもうひとつ、結論を出しました。それは、
「後継人材を開発する」という組織行動そのものを創るべきであること。
それは、トップから例示すべきこと。
当初の検討では、コーチングの対象は後継人材候補たちでした。
しかし、この議論を通して、CEO自らもそこに加わることがその場で決まりました。
その4:意図・要望を伝えたか?
「なぜ、あなたにコーチをつけるのか」
「コーチングを活用して、どうなってほしいのか」
そうした意図や要望を伝えず、本人の納得もないままコーチとの対話の場が設定される。実はこうしたケースは少なくありません。
コーチングが難しくなる大きな要因のひとつがここにあります。
逆に、意図・要望がしっかり伝わっているケースでは、最初の顔合わせの時点でクライアントにすでにエネルギーが注入されています。
あるCEOは、1人ひとりと時間をとり、自分の言葉でこう伝えました。
「この3年で次の経営を担うリーダーシップチームを創る。
あなたはその候補者のひとり。但し、それは今後の活躍次第。
あなたには、目線を上げて経営者の次元に達してほしい。
あなたの経営者としての強みは~、開発領域は~と私は捉えている。
ただ、これはあなた自身が自己認識していくべきこと。
それをエグゼクティブコーチとの対話を通じて行ってほしい。
私自身、リーダーシップの洗練にエグゼクティブ・コーチングを活用してきた。
コーチングの有効性は、自身のやり方を見直し、変化の視点を得ることにある。
あなたにも、ぜひその機会を提供したい」
候補者たちと初めて対面したとき、すでに大半のメンバーが機会への意欲と、選んでもらった感謝を口にしていました。
その5:どう関与するのか?
ある企業でのコーチング契約時に、人事担当者からこんな要望がありました。
「〇〇という改善点を、コーチから本人に伝えてくれるんですよね?」
私はきっぱりと答えました。
「いえ。あなたが気づいていることであれば、あなたから伝えてください」
すると隣にいたCEOが真剣な眼差しで語り出しました。
「正直に言いますが、自分が期待していること、不足と思っていることを、本人に対して真正面から伝えることは私もしてきませんでした。
恥ずかしいですが、それが我々の実態です。
コーチングの中でコーチの皆さんがしてくれるだけでなく、それに頼るのではなく、自分たちもやっていく、ということですね」
その見解に同意してから、私はこんな提案をしました。
「どのくらい率直に言ってよいものか、そこは我々コーチが例示します。また、伝え方についてフィードバックすることもできます」
CEOは提案に同意し、最も効果的な形で自らもコーチングに関与したいと語りました。
コーチングを次の段階に進めるために
「コーチング導入の失敗事例ってないんですか?」
冒頭でご紹介したこの質問は、重要な問題提起だと考えています。コーチングのユーザー達は、他の方法論と同様、コーチングも万能ではないこと、その効果は「使い方」次第であることを直感的に理解されているのでしょう。
一方で、コーチングを提供する側は、コーチングがいかに効果的なのかを語ることを優先してしまっているように思います。
コーチングの民主化に伴い、コーチングの「使い方」に関するナレッジ開発が求められてきているのかもしれません。
そこでは、ユーザー側と提供側の対等でオープンな対話が鍵となるでしょう。
今回の内容が、コーチングの「使い方」研究のきっかけのひとつになればと願っています。
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