Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
挑戦が続かないのは、本当に本人だけの問題か?
「部下の挑戦が続かない」
経営者や管理職の方がよく口にする言葉です。
最初は挑戦に意欲を見せ動く。けれど、しばらくすると元のやり方に戻ってしまう。そこで鼓舞したり、不足を補うために研修や職場での指導を重ねたりする。しかし、期待するパフォーマンスは上がらない…。
そんな経験はないでしょうか。
多くの場合、挑戦が続かない原因を私たちは本人の能力や意欲、資質に求めます。もちろんそれも必要な視点です。ただ、それでは打ち手は「相手を変える」ことしか残りません。何より、外から行動を変えようとするだけでは、本人が自ら考え行動し続ける状態をつくることには限界があります。
あるコーチの違和感
私は現在、イギリスの専門機関でコーチの成長を支援する「スーパービジョン」というアプローチについて学んでいます。スーパービジョンの目的は、コーチ自身の関わりやあり方を振り返り問い直すこと。トレーニングでは、座学と並行して、「スーパービジョン」を実践しながら学んでいきます。
その中で印象的だった事例を、関係者の了承を得て紹介します。
私が支援しているAさんは、プロコーチとして、管理職のBさんをコーチングしています。
Bさんの悩みは、まさに「部下の挑戦が続かないこと」。Bさんは、Aさんとのコーチング・セッションで多くの気づきを得て、実践に励んでいます。
ただ、Aさんには気になっていることがありました。セッションがいつも、コーチであるAさんのリードで進んでいたのです。Aさんはそのことをテーマとして、私とのスーパービジョンに持ち込みました。
実は私との間でも…
Aさんの話を聞きながら、私は自分とAさんの関係にも目を向けていました。Aさんが私に寄せてくれる敬意や信頼、それが時に私への依存に変わっていくように感じることがあったのです。私はそのことをAさんに伝えてみました。
Aさんはハッとして、でも思い当たるところがあるようでした。
私とAさんの関係、そしてAさんとBさんの関係、そのどちらにも似たパターンが現れている。だとすれば、Bさんとその部下の間にも、同じことが起きている可能性があることに私たちは思い至りました。
そこで私たちは、それぞれの関係を数回にわたって振り返り、また理想も模索しながら、「関係性の問い直し」に着手したのです。
レッテルが関係のパターンをつくる
その中で、私はAさんに「Bさんをどんな人として見ているのか」と問いかけました。
Aさんはしばらく黙って振り返ったあと、「依存的な人」と言いました。
知らずしらずのうちにAさんは、Bさんに「依存的な人」というレッテルを貼っていたのです。だから自分がリードしなくてはいけない。ゆえに、Bさんが行き詰まると助け舟を出し、新しい視点を差し出す。
その繰り返しによって二人の関係には、「常にリードする人」と「それに応じる人」というパターン化が起きていることが見えてきました。
上司と部下でも同じです。もちろん場合によりリードが必要なときもあるでしょう。問題は、それが恒常的な関係になることです。「まだ任せられない」とリードする。その繰り返しの中で指示を待つ部下が育ち、上司はますます任せられなくなる。そしてついには、この部下はダメだと、心の中で切り捨ててしまう。
レッテルを貼っているとき、私たちは問題を相手の中に求めがちになります。結果として、レッテルから生じている「自分の関わり方」の影響に気づきにくくなります。
その後、Aさんは、コーチングの中でBさんに尋ねたそうです。
「セッションのリードをいつも私に委ねてくださっているように感じるのですが、それはどんな考えからでしょうか」
Bさんの答えは明快でした。
「我流でやるより、プロの進め方に任せたほうが、学びも変化も早いと思っているんです」
一理あります。
一方で、部下の挑戦が続かないと悩むBさん自身が、自らの学びをコーチに委ねているという側面もある。
そのことについてAさんがBさんと率直に話すことで、Bさんにも新たな気づきがあったようです。それをきっかけにAさんとBさんも二人の関係性を問い直し始めました。Bさんは、プロに任せる合理性と敬意は持ち続けつつ、 主体性を発揮し、Aさんはコーチとしてより機能する。二人の間で生み出されるものが、少しずつ変わってきています。
そしてBさんの部下にも、変化の兆しが。挑戦に向け、生煮えの状態でも相談を持ちかけ、Bさんと対話するようになった部下が現れているようです。
相手を変える前に、自分を見る
今回のテーマについて、私自身、苦い経験があります。
ある部下が退職したとき、上司からこう問われたのです。
「彼とは、どんな関係が続いていたの?」
当時、私は事業を立て直す挑戦の局面にありました。そのための「行動」を重視していた私は、立て直しに向けて新たな行動を進めようとしない一部の部下たちのことを「一緒に挑戦してくれない」ともどかしく思っていました。
私が見ていたのは「私の目に映る彼らの行動」であり、「私と彼らとの関係性」には意識を向けていなかったのです。
がくぜんとする私に、上司はさらに問いかけました。
「望月さんが思う、部下との理想的な関係ってどんなもの?」
今の私をつくる問いのひとつです。
相手にレッテルを貼り、関係を固めてしまうとき、損をしているのは実は自分です。相手の力も組織の力も活かせず、すべてを背負い込むのですから。少なくとも、部下を失った後の私は、そう考えるようになりました。
上司が変わって活躍し始める人がいます。異動して力を開花させる人もいます。そこでは「関係」も変わっています。相手を活かす関係を組織につくり続けることが、マネジメントの重要な役割の一つだとしたら、研修や異動、制度改定に先立って、できることがあります。
それは、相手を見る自分の目を、あえて疑うことです。その見方には、それまでの経緯があるはずです。それでも疑う。楽ではありません。長年の見方を手放すのは、ある意味で最も骨の折れる仕事です。けれど、人材を活かすために部下との関わり方を変えると自分が決めれば、稟議を通すこともなく今日から始められる。そして、それは他でもない自分にしかできないことです。
部下について「挑戦が続かない」と言いたくなったら、まず自分自身に問うことから始めてみませんか。
私は今、相手をどう見ているのか。
相手との関係を、自分はどうつくり出してきたのか。
そのうえで、部下に聞いてみてください。
「組織が最高のパフォーマンスを発揮するための、あなたと私のベストな関係ってどんなものだろうか?」
挑戦が続くかどうかは、本人の能力や意欲、資質だけで決まるものではありません。そのパフォーマンスには、あなたがその人とどんな関係をつくっているかも映っています。
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【参考資料】
Edna Murdoch, Jackie Arnold, (2013), “Full Spectrum Supervision: Who You Are Is How You Supervise”, Panoma Press Ltd
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