Coach's VIEW

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リーダーの知らないところで、組織は決まっている
―「前提」という見えない壁と向き合う

ワークショップを企画した人事チームの若手社員も加わって、組織の課題やこれからの変革について対話をしている中で、ひとりの若手社員が言いました。

「正直に言うと、結局、何をやってもこの会社は変わらないと思っています」

また、別の社員も、こんな風に言いました。

「トップが変わるたびに方向性が変わるので、どうせまた変わるだろうと思ってしまいます。だから、どこかで距離をとってしまうんです」

どちらも、決して感情的な批判ではありませんでした。むしろ淡々と、静かに語られた言葉でした。だからこそ、胸に残りました。そして常々感じていたあることを改めて考えさせられました。

それは、多くの組織で、リーダーの知らないところで、組織はすでに決まっているのではないか。彼らが言うようなある種の「前提」が組織の行方を決めているのではないか、ということです。

組織は、「前提」で動いている

私たちは日々、無意識のうちに、さまざまな「前提」のもとで仕事をしています。

  • どうせ言っても無駄だ
  • 上は現場を本気では見ていない
  • 失敗すると損をする
  • 余計なことはしない方が安全だ
  • どうせこの会社は大きくは変わらない

こうした前提は、誰かが明確に定めたものでも、どこかに明文化されているわけでもありません。過去の経験、評価のされ方、上司の振る舞い、意思決定のプロセスなどを通じて、少しずつ組織に染み込んできたものです。やがて、それは「この会社では、そういうものだ」という“常識”になり、確実に人の思考そして行動を支配していきます。

組織変革を阻んでいるのは、本当に「社員の意識」なのか

変革に取り組む経営の現場で、よくこんな言葉を耳にします。

「もっと主体的になってほしい」
「なぜ挑戦しないのか」
「社員の当事者意識が足りない」

しかし、それは、本当に「社員の意識」の問題なのでしょうか。
「この組織はどうせ変わらない」と思っている人が、本気にならないのは自然です。
「失敗すると評価が下がる」と感じている人が、挑戦を避けるのも合理的です。
「どうせまた方針が変わる」と思っていれば、様子見になるのも無理はありません。

彼らはただ、その組織に存在する「前提」に基づいて、合理的に行動しているだけなのです。
彼らだって「会社をよくしたい」と、心の中では思っているはずです。

これまで多くの企業と関わる中で、変革が進まない組織には、共通する次のような「前提」があると感じています。

  • どうせ最初から結論は決まっている
  • 現場の声は形式的に聞かれているだけ
  • 改革は一時的な流行にすぎない
  • 失敗するとキャリアに傷がつく
  • 結局、無難であることが最も評価される
  • 前例を守る方が安全だ
  • 率直に意見を言うと、扱いづらい存在にされる
  • 頑張ってもどうせ報われない

もし、これらの中に少しでも「当てはまる」と感じるものがあれば、それは変革が進まない重要なサインかもしれません。

前提は、経営の「結果」である

さて、これらの前提は、自然発生したわけではありません。
これまでの経営の積み重ねの結果として生まれてきたものです。

  • 意見が採用されなかった経験
  • 失敗した人が守られなかった記憶
  • 方針が何度も変わった歴史
  • 十分に説明されなかった決定

こうした一つひとつが、「どうせ…」という前提を形づくってきたのです。

前提は、「組織の記憶」です。そして、その多くは、経営の選択によってつくられています。
だからこそ、前提を変えられるのも、経営なのです。

変革の第一歩は、「前提の言語化」である

では、何から始めればよいのか。
私が強く勧めたいのは、組織に今存在する前提を、あえて言葉にすることです。見えないままにしておけば、前提は検証されることも、選び直されることもありません。だからこそ、まずは光を当てる必要があります。

たとえば、こんな問いを投げかけてみてください。

  • この会社で、挑戦した人はどう扱われているか
  • 失敗した人は、その後どうなっているか
  • 率直に意見を言った人は、どんな評価を受けているか
  • 過去の改革は、どう終わったか
  • 経営陣は、どこまで信頼されているか

こうした問いを置き、まずは経営チームの中で率直に対話してみる。その対話の中に、これまで明確に語られてこなかった「前提」が、少しずつ立ち現れてきます。その中には変革の「壁」と感じるものもあれば、逆に組織のエンジンとなっていると感じるものもあるでしょう。

重要なのは、そこで善悪の判断を急がないことです。その「前提」は、これまでの成長を支えてきた大切な土台だったかもしれません。「慎重であること」「前例を守ること」「トップダウンで迅速に決めること」が合理的だった時代もあったでしょう。

重要なのは、ここからです。
その前提は、これからの未来を創るうえでも、最適な前提でしょうか。

環境が変われば、合理性も変わります。かつて組織を守ってきた前提が、いまは組織の可能性を狭めていることもあります。

経営チームが、今ある前提を認識し、「これは続ける」「これは見直す」と選び直していく。
その営みこそが、変革の出発点です。

私の経験では、前提が言葉になっていくプロセスは、時に緊張を伴いますが、同時に非常に探索的で、創造的、そしてエキサイティングな時間でもあります。

変革を前進させる
前提が「組織の記憶」であるならば、新たな記憶を積み重ねることで、前提は更新されていきます。
そのためには、問いを少し未来志向に変えてみることです。

  • この会社で、挑戦した人をどう扱っていきたいか
  • 挑戦して失敗した人を、どのように評価していきたいか
  • 率直に意見を言った人を、どのような存在として位置づけたいか
  • 改革に、これからはどう向き合っていくのか
  • 経営陣は、社員とどのような関係性を築いていきたいか

これらの問いは、「現状の診断」ではなく、「未来の選択」です。そして、その選択は、言葉だけではなく、日々の行動によって証明されていきます。

組織のメンバーたちは、トップが発するスローガンよりも、トップの一貫した行動を見ています。そして、その行動の積み重ねを見て、体験して、新しい前提を形成していきます。

「挑戦は、本当に守られているのか」
「率直な意見は、本当に歓迎されているのか」

こうした具体的な行動の連続が、新しい組織の記憶をつくり、やがてそれが新しい“前提”になります。

組織変革とは、制度を変えることでも、スローガンを掲げることでもありません。見えない前提に光を当て、対話を通じてそれを選び直し、行動の積み重ねによって“前提”を更新していくことです。

その覚悟を持てるかどうか。

それこそが、これからの時代のリーダーに問われていることなのではないでしょうか。

 

《関連資料》【調査レポート】経営チームにおける対話の有用性と促進に向けて

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