Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
第1回 なぜ、優秀な人ほど「変化」でつまずくのか
トランジション・コーチングの教科書
内村 創
はじめに
コーチ・エィ 取締役 常務執行役員、内村 創による著書『なぜ、優秀な人ほど「変化」でつまずくのか トランジションコーチングの教科書』が、ディスカヴァー・トゥエンティワンから2026年3月20日に発売されました。本書は、トランジション(移行期)に直面するリーダーが、新たな役割・環境へ素早く適応し、成果を出すための具体的な行動指針や方法を示した実践書です。
発売を記念して、トランジションが難しい背景やそれを成功に導くためのヒントを、本書から抜粋してご紹介します(全6回)。
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第1回
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はじめに |
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第2回
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トランジション発生頻度が増えている |
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第3回
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トランジションの難易度も高まっている |
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第4回
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成功体験の落とし穴 |
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第5回
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伴走者(コーチ)の存在 |
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第6回
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「能力」ではなく「関係性」へのコーチング |
第1回 はじめに
今から十数年前のことです。
外資系IT企業で客先常駐のシステムエンジニアだった私は、ある日突然、
「幹部候補生として育成したい。まず役員の補佐として経営を学んでから、業務推進部門のマネージャーをやってほしい」
という打診を受けました。
チャンスを与えられたという喜びと、期待に応えたいという意欲に満ちていた私は、新しい役割に飛び込みました。
しかし現実は、思っていた以上に厳しいものでした。
新しい役割に就いた途端、それまで通用していたやり方がまったく通じなくなったのです。会議での発言は誰にも響かず、業務改善の取り組みは現場の反発を招き、部下たちは次第に私から距離を置くようになりました。
それでも私は人から指摘されるまで、自分が何を間違えているのかに気づくことができませんでした。
実は、これは私だけの経験ではありません。
マッキンゼーの調査によれば、新しい役割に就いたエグゼクティブの3~5人に1人は、最初の2年で期待どおりの成果を出せないと言われています。
その原因は、能力が足りないからではありません。多くの場合、新しい文化や人間関係、そして見えない力学とのつき合い方に苦戦するのです。
私がコーチングで支援したある会社の部長もそうでした。
彼は自分の経験に自信を持っていて、新しい役割に就いた後も「自分なら問題なくやれる」と信じていました。
けれども、異動先の部署には独自の慣習があり、それが壁となりました。
成果を出すより早く孤立感が深まり、彼の自信は少しずつ揺らいでいきました。夜中に目を覚まし、「自分はこの役割にふさわしいのだろうか」と自問する日々が続いたそうです。
昇進、異動、転勤、出向、転職 ―これらはキャリアの大きな節目です。この移行期のことを「トランジション」といいます。一見、誇らしい人生のハイライトに思えるこれらの出来事ですが、実際には多くの人が戸惑い、孤立し、自信を失っていきます。
IMDビジネススクールの調査では、半数以上のリーダーが新しい役割に慣れるまで半年以上かかるといいます。企業はリーダーに就任したその日から結果を期待しますが、現実には立ち上がりに時間がかかる ―その小さなずれが、やがて信頼を揺るがしてしまうのです。
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
理由の一つは、これまでの成功体験にあります。
成功体験が大きい人ほど「これまでのやり方でさらに頑張れば成功する」と思い込んでしまいがちです。
しかし、実際には過去のやり方が新しい状況にそのまま通用するとは限りません。
むしろ、順風満帆にキャリアを積んできた人ほど、プライドや思い込みから柔軟に振る舞えず、壁に突き当たるのです。
もう一つの理由は、トランジションが「個人の問題」として扱われることです。
多くの企業では、昇進や異動を「成長の証」や「チャンス」と位置づけ、本人の努力で乗り越えるべきものと考えています。支援があるとしても、最初の数日間のオリエンテーションや引き継ぎ程度にとどまることがほとんどです。
しかし、それだけでは十分ではありません。
本当に必要な支えは、その後の数か月間にあります。新しい環境に適応し、信頼関係を築き、成果を出すまでのプロセスこそ、最も支援が必要な局面なのです。
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